【プロの視点】軒下空間にこだわろう!おしゃれに実現するためのポイントを豊富な実例とともにご紹介
大きく張り出した屋根の軒(のき)は、日本の木造住宅において、古くから取り入れられてきた建築様式のひとつです。
農作業を主体にしていた日本人は、古くから軒下に生まれる空間を活用しながら暮らしてきました。
現在、都市部など住宅が密集する地域では、軒の出がほとんどない家が多くみられます。
家づくりを考える際、敷地条件やデザインの好みなどもあり、軒の深さで悩まれる方は多いかと思いますが、軒を伸ばすことで生まれる軒下空間がある暮らしについて、一度考えてみるのはいかがでしょうか?
今回は、軒下空間を活用したおしゃれな実例や、実現するためのポイントなどをご紹介します。
軒下空間にこだわっておしゃれな住宅を実現する
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「軒」は外壁よりも突き出ている屋根の一部分をさし、軒下空間はその突き出た屋根の下にある場所をさします。
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一方「庇」は、玄関や窓といった開口部の上部に取り付けられた小型の屋根のこと。屋根との繋がりはなく、独立して設けられているのが特徴です。
軒と庇は、家を雨風や日差しから守るという同じ役割を持っていますが、屋根の一部であるか、そうでないかという点に違いがあります。
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一般的に、軒や庇の出幅は、サッシ下端から軒や庇までの高さの0.3倍程度(窓の高さ10に対して出幅3)が目安とされています(真南に窓を設置した場合)が、ここからは軒下を広くした場合のメリット・デメリットをみていきましょう。
改めて軒下を広くした場合のメリット・デメリットを解説
メリット
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深い軒を出した家は、屋根の水平ラインを際立たせ、意匠性を高めることができます。
また軒下空間が、家の「内」と「外」の中間領域となり、光や風を感じながら過ごせる居心地の良い場所に。
1m程度の軒の出でも、外壁に直射日光や雨があたりにくくなったり、屋根の接合部からの雨漏りを防いだりと、家の耐久性を高めてくれる効果が期待できます。
さらに、軒天があることで、屋根裏の換気がしやすくなるのも嬉しいところ。
軒下が深い玄関なら、雨天時も家の出入りがスムーズに。駐輪場や駐車場なら、自転車や車を濡れずに停めておくことができます。
他にも、洗濯物干しやDIY用スペースなど、半屋外空間ならではの使い方が楽しめます。
デメリット
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一方で、軒が長い家は、軒下空間を確保できる代わりに、建物本体の建築面積が制限されてしまうことも(後項参照)。
自然光が入りにくい時間帯や曇りの日などは、室内まで十分な光が届きにくくなるほか、軒を伸ばした分、風の影響を受けやすくなる場合があります。
そのほか、荷重による軒先の歪み、風が下から上へ吹き上げることによる煽りへの対処など、構造的な補強が必要になることからコスト増の一因に。
また、屋根が大きく張り出すことで、外観のバランスが崩れやすくなるという懸念点もあります。
軒下空間の活用方で軒の出や仕上げ材を考える。外観や室内側とのバランスに注意
【ウッドデッキの上に長さ1.8mの軒を出した例】
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地域や気候条件によって異なりますが、軒を出す家で最も多いのは、長さ90㎝といわれています。
軒の長さを決める際は、軒下空間をどのように活用するのかを想定した上で決めましょう。
【居室の天井の一部と軒天の仕上げ材を揃えた例】
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例えば、縁側やデッキに腰かけて一時的に庭を眺めるなら、軒の出は1m80㎝(1800㎜)程度がひとつの目安。
椅子やテーブルを配するなら、2m70㎝(2700㎜)ほど軒を伸ばすと、雨や直射日光の影響が少なく済み、寛ぎやすい空間になります。
上の画像は、視界に入りやすい軒天と、居室の天井材の一部を同じ木調の柄で揃えた例。
居室側と軒下空間、それぞれのスペースに繋がりを持たせたデザインです。
【自転車置き場と作業スペース(玄関前)を確保した軒下空間の例】
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軒の出が1m未満の場合、軒下空間というよりは、屋根としての役割を果たすことになります。
玄関アプローチや外物置スペースなど、雨除けを目的とする場合におすすめ。
【玄関からガレージスペースまで一続きとした軒下空間の例】
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軒下空間に自転車を複数台停めて駐輪場とするなら、軒の出は2m70㎝(2700㎜)前後あると使い勝手が増します。
車を2台以上停めるガレージとして使うなら、5m50㎝(5500㎜)以上は軒の出があると便利。
いずれも、土地の向きや敷地の形、接道位置、間取りなどによって変わりますので、軒下空間をどのように使うかを考えながらプランニングしていきましょう。
軒や庇の代わりにオーニング(シェード)を活用するのもおすすめ
【外壁とオーニングのカラーを同系色で揃えた例】
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軒を出したり、庇を設置したりするのが難しいなら、オーニング(シェード・テント・タープなど)やテラス屋根を検討してみるのもおすすめ。
なかでも自立(独立)型オーニングは、壁への取り付けが不要。柱が4本ある基本タイプや片持ち2本タイプなどがあり、壁の材質や強度を気にすることなく、開閉も自由にできます。
外壁に直接取り付けるなら、壁付型オーニングを。地面の建造物に制限されることなく、すっきりとした軒下空間をつくることができます。
【簡単に巻き上げ操作ができるシェードの例:三鷹テント(ファーリングシェード)】
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オーニングよりもっと気軽に取り付けたい場合は、シェードを検討してみましょう。
使う度に取り外しする必要がなく、簡単に巻き上げ操作ができるタイプが最近注目されています。
もっと詳しく!パーツ別に軒下空間をおしゃれに仕上げるポイントを解説
軒下空間のテラス・ウッドデッキにこだわる
ウッドデッキ
【リビングとウッドデッキの色を揃えた軒下空間の例】
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地面より高く設置されることが多いデッキですが、軒下空間を”室内の延長”と考えるなら、居室側とデッキが繋がるようデザインすると、広々とした空間に。
合成木材(WPC)のデッキにする場合は、居室の床材との質感や色と違いが出やすいので、サンプルをとって確認すると安心。
テラス
【タイルテラスを敷いた軒下空間の例】
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”庭の延長”としてつくられるテラスは、タイルやレンガ、モルタル仕上げなど、カフェテラスのようなイメージで仕上げるとおしゃれな印象になります。
テラス床の色は、外壁に合わせると統一感が生まれますが、白系色は光を反射しすぎて照り返しが強くなったり、黒系色の場合、泥はねなどの汚れが目立ちやすくなったりすることがあるので、注意しましょう。
軒下空間の照明にこだわる
【植栽をライトアップし、軒天に葉陰を映し出した例:Panasonic】
https://www2.panasonic.biz/jp/lighting/home/exterior/camp/
夜間の軒下空間には、軒天に軒下灯、壁面に照射方向を調節できるユニバーサルブラケットやスポットライトを設置するのがおすすめ。
テーブルを配するなら、手元まで明るく照らす集光型タイプが〇。
軒天に向けて植栽をアッパーライトで照らすと、頭上に枝や葉影のシルエットを浮かび上がらせることもできます。
壁面を強調するなら、エクステリアスタンドを壁の近くに。視線が奥方向まで伸び、空間に広がりを感じさせることができます。
軒下空間の外観にこだわる
【片流れ屋根の例】
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軒下空間のある建物外観は、さまざまなプランが考えられます。
ひとつの例として「機械に頼らず、太陽の熱や光、風などの自然エネルギーを利用して、省エネルギーな家をつくりたい」という方におすすめなのは、パッシブデザインという設計手法をもとにした軒の掛け方。
例えば、南側に建つ隣家との離隔距離が確保できている土地の場合、建物の形は東西を長めにとった長方形型とし、外壁の凸凹が少ないシンプルな総2階(3階)に近い外観にするとよいでしょう。
【平屋寄棟屋根の例】
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夏の日射遮蔽を考慮すると、屋根の形状は、寄棟屋根や南面に下る切妻屋根、片流れ屋根などがおすすめです。
後悔したくない!気になる情報を事前に押さえておこう
軒を長くする・もしくは追加する場合どれくらい費用がかかる?
【外壁を傷つけずに後付けできる独立構造のテラス屋根:LIXIL テラスSC】
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現状の屋根の軒を伸ばす場合、既存の屋根材や雨樋の撤去、新たな屋根部材の設置作業、塗装(防水・防腐処理)、板金・軒天施工、雨樋の設置費など、多額の費用がかかります。
後付け用庇は、外壁に直接ネジを打つ必要がありますが、ガルバリウム鋼板やアルミ、木材、ポリカーボネート、ガラスなどから選べるほか、出幅600・900・1200㎜、幅W900~2,000㎜などサイズも豊富。
下記はあくまでも参考価格ですので、相見積もりをとって検討してみましょう。
軒を延長する場合
材料費+施工費 50,000~100,000円/㎡
足場設置費 1,000~1,500円/㎡
後付け用庇を設置する場合
材料費(出幅900㎜×W1200㎜の庇の場合)100,000~150,000円
施工費 50,000~100,000円
足場設置費 1,000~1,500円/㎡
※下地が入っていない場合は、別途追加費用がかかります
こんなケースに気をつけろ!失敗しがちなパターン紹介
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軒を伸ばす際は、建築面積(建物を真上から見たときの面積)との関係に注意が必要です。
軒や庇の長さは自由に決めることができますが、軒の出が1m以上になる場合、軒先から1m後退した部分までが建築面積に含まれてしまうことに…。
建築面積の制限ぎりぎりで家を建てる場合、軒の出を長くすることで、居住空間が狭まってしまうことがあるので気をつけましょう。
なお、軒や庇の出が1m以下でも、両端に壁や柱がある場合は、柱や壁に囲まれた内側すべてが建築面積に含まれます。
軒下空間がおしゃれな住宅実例サンプル10選
軒下空間×モダンスタイル 4選
LDKとの一体感を持たせた軒下空間
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リビングダイニングに隣接した、軒下空間のある平屋。
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大きな開口部を開け放つと、LDKと土間スペースが繋がって開放的な印象に。
室内サンルームと庭を繋いだ縁側スペース
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一部ガラス仕様の南側屋根の軒下に、縁側を設置した例。
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室内のサンルーム玄関に沿って、庭と連続するよう設えられています。
屋根をかけることで生まれた多様な生活空間
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貯水池に面した傾斜地に建つ戸建て住宅。
屋根下の空間は、壁で囲われつつも天井高のあるホールや洗面、浴室トイレなどが配置されています。
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階段を降りて水辺へ視線を向けると、屋根によって切り取られた開口部から、美しい水辺を見渡せます。
軒下空間×和風モダンスタイル 4選
大屋根のトップライトが軒下を明るく照らす
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伸ばした軒の影響で1階が暗くならないよう、大屋根に開口やトップライトを設けた例。
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大屋根は棟をずらすことで南側の勾配を緩くし、そこに設けた開口部から、茶の間とその前にある土間まで光を注ぎ入れています。
来客とも気楽にコミュニケーションが図れそうな軒下空間。
使い方に幅が広がるインナーデッキと玄関ポーチ
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閑静な鎌倉の街並みに馴染むよう、外壁に焼杉、軒天に木目調柄を施した木造2階建住宅です。
東側に開けたLDKのそばに、広い軒下空間を構築。
室内環境に近いインナーテラスで、外部空間の心地よさを楽しめます。
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こちらは建物奥まで長く軒を張り出した、玄関ポーチ側。
ベンチスツールに座って植栽を眺めるなど、気持ちのON/OFFを切り替える場所としても活用できそう。
眺望を生かした軒下のインナーバルコニー
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1階はリビングと庭を繋ぐ深い軒を掛け、2階は眺望を生かしてインナーテラスを設置した家。
https://suvaco.jp/project/qfoSzg7UhN#eXVdkxjgIX
方形屋根の下に位置する、2階のインナーテラス。
むき出しの無垢の梁を露出した現し仕上げ(躯体現し)が、天井面の意匠性を強調しています。
木質感たっぷりの趣ある濡れ縁
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心地よい風や自然との一体感が愉しめる、濡れ縁のある家。
軒天は外壁の木質感と一体化を持たせ、深みのある色調で統一しています。
独自のスタイルを突き進む軒下空間 3選
斬新さと実用性を両立する折り紙型の軒下空間
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「庇のある家」をコンセプトに建てられた、折り紙型屋根のある住宅です。
南側の大開口部だけでなく、東西の上部にも採光部を確保。
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デッキテラスを設置した、半屋外となる軒下空間。
冬の強い季節風をしのぎつつ、風がよく通るよう配慮がされています。
庭の緑を眺める軒下空間
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切妻屋根に大きな穴を開けた、平屋のような住宅。
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軒下から、ラワン張りの天井を見上げたところ。
庭を行き来しながら、伸びやかな庭の緑を眺めることができます。
多様な植物を植えたヴォールト型軒下空間
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大・中・小のヴォールト(アーチ形態の曲面天井)が並んだ、鉄骨造の建物です。
コンクリートスラブ厚は120㎜あり、家の内外を隔てるのはガラス戸1枚のみ。
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多くの鳥や虫が集まるよう、多種多様な植物を植えこんだ軒下空間。
頭上には、ヴォールトの谷部分が連続する斬新なデザイン天井が広がっています。
まとめ
今回は軒下空間に注目し、おしゃれに実現するためのポイントや実例をご紹介しました。
周囲に建物が立て込んだ敷地などでは、軒を伸ばしにくいケースがありますが、外壁を保護したり、デザイン性を高めたりなど、軒を出すことによって得られるメリットはさまざま。
なにより軒下空間が広がることで、アウトドアリビングや趣味を楽しむ場など、ライフスタイルに合わせた使い方を楽しむことができます。
家の中と外を繋ぐ中間領域として、ぜひ一度、軒下空間のある家づくりを検討してみてくださいね。